「檜原村紀聞」 (瓜生卓造著)

“次の山歩きは浅間嶺だな”と思いながらこのルート案内を見たら「歴史のみち」との名前が付けれていた。どんな歴史か案内では良くわからないので調べてみてこの「檜原村紀聞」に行き当たった。早速本を手にいれて読んでみたら読みごたえがあり面白かった。檜原村(=ひのはらむら)は島部を除いて東京都唯一の村。この本はこの村に関して、自分で歩いて、聞いて、調べて書かれた本で、著者の檜原村に対する愛情と尊敬、そしてその自然を限りなくいつくしむ心が文章に現れていた。柳田國男の「遠野物語」が好きな方なら多分魅了させられるだろう。「遠野物語」は天狗・河童・座敷童子などの妖怪や地元の神々の伝説を説いた本だが、「檜原村紀聞」はそれほどのファンタジーはないが、一寒村の歴史と自然をこれだけ詳しく調べ、村人・自然に愛情を注いで書かれた本はそうもないだろう・。本の出だしも素晴らしい。引用する。

”秋川は静かに流れてゆく。瀬に早み、淵に淀み、潺湲たる水音が、山襞に木霊を返す。腐葉土に濾過された清い水である。ことに秋も闌けたころは美しい。青磁石に冴えかえり、玲狼とした鼓動が旅人の詩情をそそる。煌めく光帯のもとに河床の小石が震える。音もなく紅葉が散る。流れていく紅の小舟にほのかな夢が運ばれていく。紺青の空には底もなく、槻の梢がレンガ色に燃え上がる。蕭ヒツの秋に川は清らかに生き続ける。・・・・・・・・

田部重治の「数馬の一夜」も素晴らしい一文だが、この本の始めも名文だと思う。文章が美しいのは、「著者が長年山を歩き、山で鍛え、山で洗ってきた著者の目が、“自然の恵みが全村にこぼれている”という檜原の、森と流れと空と人の呼吸をとらえて、その襞襞に食い入っている(進藤純孝)」からであろう。著者は自然破壊に厳しい言葉をかける。役人の愚考を軽蔑する。「檜原村紀聞」は著者の1977年の作品である。35年前の檜原村の人情と自然は今でも残っているのだろうか?

檜原の人は「空がせまい」と言う。山に囲まれ谷川に沿った部落からは、そのとおりで、見上げると空が見えると言った感じである。日没も早い。この前も夕方バスを待っていたら、3時前には陽が山景に隠れ冷気が体にしみてくる。吐く息も白い。こんな山間の村で村人はどう暮らしていたのだろうか?

読み終わってこれから歩く道が非常に興味深くなってきた。きっと路傍の石仏にもきっと物語があるのだろう。

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